総務省が2026年7月に公表した令和8年版情報通信白書から、日本企業の生成AI利用率が前年度より大きく上昇したことがわかります。一方で、白書のデータを詳しく見ていくと、利用率の上昇と生成AIを使いこなせているかは全く別のことだと読み取れます。
この記事では、日本企業の生成AIの活用の割合や用途について、海外と比較しながら解説します。
日本企業の生成AI利用率は86.4%、前年度から大幅に上昇
一つ以上の業務で生成AIを利用している日本企業の割合は86.4%でした。ただし前年度からの変化を見ると、状況の見え方が変わります。
| 国 | 令和8年版 | 前年版 |
|---|---|---|
| 日本 | 86.4% | 55.2% |
| 米国 | 90.9% | 90.6% |
| ドイツ | 91.6% | 90.3% |
| 中国 | 98.1% | 95.8% |
日本の上昇は、先行していた各国に一年で追いついた動きがみられます。
このデータから、「使うかどうか」という議論は、この1年で決着したとみられます。ただし利用率という指標はもう日本企業のAI活用度を測るものさしとしては機能しなくなっており、論点は後述する「使いこなし」の差に移っています。
AI利活用を測るうえでは、利用率で単純判断するのではなく「効果の実感度」や「業務変革の深度」も追う必要があるでしょう。
生成AIの活用方針を定めても4社に1社は「何もしていない」

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(21頁、図表Ⅰ-2-1-1)
会社としての生成AI活用の方針を定めた企業も増えました。「積極的に活用する方針である」が30.1%、「活用する領域を限定して利用する方針である」が38.8%で、合わせて68.9%が何らかの活用方針を持っています。前年度は49.7%でした。
従業員が個人の判断で使う段階から、会社として使い方を決める段階へ移った企業が、一年で相当数増えたことになります。
ただし、方針の策定では海外との差が残ります。同じ二つの回答を合計すると米国とドイツは8割強、中国は9割半ばに達しており、白書も日本は引き続き低いと指摘しています。使っている企業の割合ではほぼ並んだのに、会社として方針を出している企業の割合では差がついたままです。
日本企業のAI活用は「議事録・メール作成補助」で約7割
日本で最も活用されている用途は、議事録の作成やメール文面の作成補助でした。活用率は約7割で最上位、導入効果を実感していると回答した割合も72.3%で最上位です。
効果実感の2位は社内ヘルプデスクの42.7%、3位は研究・商品開発の39.1%ですから、議事録・メール作成補助だけが約30ポイントも抜けた形になっています。

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(25頁、図表Ⅰ-2-1-7)
議事録・メール作成補助で効果が出やすい理由
理由は二つあります。一つは、出力を人間がその場で確認できることです。議事録の要約に誤りがあっても、共有する前に読み返せば気付けますし、社外に影響が及びません。生成AIの回答が正しいとは限らない以上、確認しやすく失敗しても被害が小さい業務から取り組むのは自然です。
もう一つは、新しくツールを導入しなくても試せることです。Google MeetやZoomといった会議ツールには文字起こしと要約の機能が標準で組み込まれており、稟議も予算も通さずに使い始められます。導入の判断コストが低い領域だからこそ、約7割まで広がったと考えられます。
営業・販売の活用率と効果実感のずれ
活用率で次に多いのは営業・販売の約6割、その次が社内ヘルプデスクの約5割でした。問題は、そこで効果を実感できているかどうかです。
営業・販売は活用率で2位につけながら、効果を実感した割合は37.5%で、上位には入っていません。研究・商品開発の39.1%、社内ヘルプデスクの42.7%も同様に、活用率の高さほどには効果実感が伴っていません。
AI先進国(米国・中国)との違い
白書は、米国や中国では各業務類型において活用率が高く、特に研究・商品開発において生成AI導入の効果を実感すると回答した割合が高い傾向にある、としています。新しい製品やサービスを生み出す業務で成果につながっているということです。
日本では、成果を実感できている業務が議事録・メール作成補助にほぼ限られているのに対し、米国や中国では幅広い業務で成果が出ている、という違いが数字に表れています。
効率化から入ること自体は誤りではありませんが、そこで止まってしまうと生成AIから得られるものは作業時間の短縮にとどまります。すでに営業や研究開発でも使い始めている以上、次に重要となるのは、なぜそれらの業務では効果を実感できていないのかです。
AIを利用することとAIを使いこなすことは別
生成AI活用に向けた環境整備の状況を見ると、日本と他の3か国の差がはっきり出ます。
| 取組 | 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 |
|---|---|---|---|---|
| 生成AI活用検討に向けた予算や人員が確保されている | 37.4% | 50.0% | 41.5% | 50.2% |
| 業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある | 39.9% | 62.7% | 60.4% | 71.7% |
| 分析・活用可能な社内データの整備が進められている | 26.1% | 33.0% | 41.5% | 44.0% |
| 生成AIに社内データを学習させたり、生成AIが参照可能なデータベースを構築したりしている | 24.5% | 57.2% | 54.4% | 73.0% |
| 特に実施している施策はない・把握していない | 19.9% | 0.7% | 0.7% | 0.3% |
日本で最も進んでいる取組でも4割に届かない
日本の回答が最も多かったのは、「スキルやノウハウを学ぶ環境がある」の39.9%でした。研修や勉強会の場を用意している企業が4割弱ということです。日本企業が最も力を入れている項目でありながら、6割は手をつけていません。同じ項目で米国は62.7%、中国は71.7%です。

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(24頁、図表Ⅰ-2-1-5)
米国は、予算の確保とデータベースの構築を含めて5割を超える項目が3つあり、環境を整えている企業のほうが多数派になっています。環境整備について「特に実施している施策はない・把握していない」と答えた企業も19.9%あり、米国とドイツの0.7%、中国の0.3%とは桁が違います。
日本国内では、環境整備に手をつけていない企業のほうが多数派だということです。自社が未整備でも、同業他社を見わたすかぎり、差がついていることに気付けない状況にあります。
社内データは持っているがAIにつないでいない
分析・活用可能な社内データの整備は日本26.1%、米国33.0%ですが生成AIが参照できるデータベースの構築になると、日本24.5%に対して米国57.2%に開きます。
米国・ドイツ・中国では、AI向けのデータベース構築のほうが、一般的な社内データの整備よりも回答率が高くなっています。米国は33.0%に対して57.2%、ドイツは27.4%に対して54.4%、中国は44.0%に対して73.0%です。日本だけが26.1%と24.5%でほぼ並び、AI向けの整備が先に進むという動きが見られません。
日本企業がすべきことはデータ収集ではなく、すでに社内にある過去の提案書や業務マニュアル、問い合わせの記録などを、AIが参照できる場所に置き直す作業といえます。
予算はあるのに整備に向かっていない
予算や人員の確保は日本37.4%、米国50.0%で、データベース構築よりは差が縮まります。
日本企業も、AI活用のための予算と人員は海外に近い水準で確保しているということです。それでいて、確保した予算はAIに何を読ませるかの整備には向かっていません。
ツールやコンサルタントなどの専門家と契約して使い始めるところまでは進み、自社の情報をAIに渡す段階で止まっている、という形になっています。
まとめ:白書が示す日本のAI活用の現状と課題
利用率という指標では、日本は海外にほぼ追いつきました。しかし、社内データの整備と人材育成という基盤の面では、依然として大きく離されています。生成AIを使う企業が増えたことと、生成AIから成果を引き出せていることは別の話であり、これからの一年で問われるのは活用の質のほうです。
効果的にAIを活用できている企業には共通する要素があります。
- 経営層がAIを単なる「効率化ツール」としない
- 業務プロセスをAI前提で再設計している
- 汎用AI活用→優先業務への組み込み→全社的な変革、という段階を踏んでいる
活用率86.4%という数字は、多くの日本企業がまだこの3段階の「入口」にいることを意味しています。本当の意味でのAI利活用企業になれるかは、経営がAI活用を主導できるかどうかです。活用方針を定めた企業の中でも、組織的な取組がない企業は27.0%残っています。
どの業務までAIに任せるか、社内のどの情報を参照可能にするか、誰にどこまでの権限を与えるかは、現場で決められません。判断を保留したまま現場の工夫に任せておくと、使い方の巧拙が個人差のまま固定されます。
そのうえで取り組むべきは、業務プロセスをAI前提で組み直すことです。既存の手順の一部をAIに置き換えるだけでは、削減できる時間は議事録を書いていた分にとどまります。
まず自社の資料やマニュアルをAIが参照できる形に整理し、そのうえで営業や商品開発のように社内の情報を必要とする業務へ広げていく。企業が次にすべきことは、白書が紹介する中外製薬やアイニコグループのように、経営層が危機感を持って活用推進を明確に指示し、小さなプロジェクトから始めることといえます。
出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-2-1-1、Ⅰ-2-1-3、Ⅰ-2-1-5、Ⅰ-2-1-6、Ⅰ-2-1-7)