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AI導入の本当の課題は「目的が決まっていない」こと。日本企業が具体的にすべき施策

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公開 2026-08-23

総務省が2026年7月に公表した令和8年版情報通信白書を見ると、日本企業のAI導入を止めている原因が見えてきます。

その原因は、危機感の不足や経営陣の消極姿勢、規制だけではありません。4か国の比較で日本が最も高かったのは「明確な目的・目標が定まっていない」で、その割合は29.5%でした。

この記事では、AI導入を目指す企業が取り組むべきことを解説します。

日本企業がAI導入に感じている危機感

生成AIの活用によって生じうる影響を尋ねたところ、日本企業の危機感が表れています。

生成AI活用により生じうる影響 日本 米国 ドイツ 中国
活用しないと企業としての競争力が失われる 15.9% 9.7% 9.1% 11.0%

日本では「活用しないと企業としての競争力が失われる」と回答した企業が15.9%で、4か国で最も高く、米国の1.6倍でした。生成AIを使わないこと自体が競争上の不利につながると考えている企業は、日本に最も多いということになります。

よくAI導入が進まない理由として危機感の不足が挙げられますが、結果を見る限り、日本企業は必ずしも危機感を持っていないわけではないでしょう。

一方で、生成AIへの組織的な取組がない企業は日本で27.0%に上ります。米国とドイツは0.4%、中国は0.7%です。組織として何もしていない企業が4社に1社を超えていますが、内訳は企業規模によって大きく違い、中小企業と大企業の差については別の記事で扱っています。

危機感を持っていても動き出せないのであれば、止めているものが別にあることになります。

経営陣と規制は障壁になっているか

ここからはデジタル化に関する調査を参考にします。白書の企業向けAI調査とは別の調査で、日本の回答企業数は4,855社、デジタル化に取り組む企業を対象にした調査です。この調査のなかでの4か国を比較します。

デジタル化に関する調査

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅱ部第1章第11節「データ集

「経営陣が乗り気ではない」は7.2%

デジタル化の障壁 日本 米国 ドイツ 中国
経営陣(決定者)が乗り気ではない 7.2% 27.5% 16.5% 23.3%

日本は7.2%で4か国のなかで最も低く、米国27.5%の4分の1です。デジタル化を進めるうえで決定権者の同意が取れないことを障壁に挙げた企業は、日本ではほとんどありません。経営陣が動かないことを課題としているのは、米国・中国・ドイツの企業のほうです。

日本のAI導入について、経営層の理解不足を原因に置く説明があります。しかし、この結果を見ると、他3カ国に比べて経営層の理解は得られていると考えられます。

「規制・制度による障壁」は12.6%

デジタル化の障壁 日本 米国 ドイツ 中国
規制・制度による障壁 12.6% 33.3% 38.8% 32.0%

日本企業で規制・制度による障壁を感じているのはドイツの3分の1で、4か国のなかで最も低いです。規制が厳しいために日本のAI導入が進まないという主張は、この結果とは逆ということになります。

規制や制度を障壁として意識しているのは、むしろ海外の企業です。

AI導入の本当の課題は目的が決まっていないこと

日本が4か国のなかで最も高い値を出した項目が2つあります。

デジタル化の障壁 日本 米国 ドイツ 中国
明確な目的・目標が定まっていない 29.5% 8.7% 12.6% 15.5%
人材不足 39.4% 18.4% 28.5% 36.6%

目的が定まっていない29.5%は米国の3.4倍

「明確な目的・目標が定まっていない」と答えた日本企業は29.5%で、米国の3.4倍です。この記事で扱う4つの障壁のなかで、日本と他国の開きが最も大きい項目になります。

前の節で見たとおり、経営陣が乗り気ではないと答えた企業は7.2%にすぎません。決定権者は前を向いていますが、何のためにAIを使うのかが決まっていないのが現状のようです。

人材不足39.4%は目的が決まっていないことの結果でもある

人材不足の中身は、同じ調査の別の設問から読み取れます。デジタル化に対応する人材が社内に在籍しているかを尋ねた結果です。

デジタル化に対応する人材の在籍 日本 米国 ドイツ 中国
デジタルシステムの実装に精通した者 56.1% 81.9% 83.5% 70.6%
ビジネスのデジタル化に精通した企画・立案者 46.2% 81.2% 74.1% 78.6%
CIOやCDOなどのデジタル化の主導者 35.9% 86.4% 80.6% 83.8%
AI・データ解析の専門家 26.4% 75.4% 77.3% 74.1%
UI・UXに係るデザイナー 23.7% 67.6% 68.9% 70.6%

日本はすべての類型で他の3か国を下回りますが、下回り方は一様ではありません。企業の人材の割合から、システムを作る人はいて、何を作るかを決める人とデータを扱う人が少ないということがわかります。

さらに、AI・データ解析の専門家を確保するための取組を尋ねた設問では、「何も取り組んでいない」と答えた日本企業は27.2%で、社内での育成、採用の割合を上回りました。この結果は、他3カ国に比べて高いものでした。

人材不足を4か国で最も強く挙げた国が、その人材を確保する取組では最も動いていません。一見すると矛盾しているようですが、AIを導入する目的から考えると、順番の問題として説明がつきます。

何にAIを使うかが決まっていなければ、どのような人材が必要かも決まりません。必要な人材が決まらなければ、採用の要件も、育成のカリキュラムも書けません。

方針が決まっている企業は何をしているか

目的を決めましょう、という助言だけでは動けません。白書には、方針が決まっている状態を具体的な項目に分類した設問があります。

経営層がAI活用について実施している取組に関する設問の結果から、社内の方針に関わる5項目を抜き出します。

経営層によるAI活用の取組 日本 米国 ドイツ 中国
経営戦略のなかでAI活用の目的や方針が明示されている 36.8% 50.0% 37.4% 49.1%
経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている 27.9% 48.9% 41.1% 55.3%
取組を推進する部署や責任者が明確になっている 27.9% 39.9% 45.9% 55.6%
AI導入のための投資計画が具体化されている 22.7% 35.1% 26.3% 45.1%
人材のリスキリングや配置転換の方針が明示されている 10.4% 16.7% 11.9% 23.5%
特に実施している施策はない・把握していない 14.7% 1.8% 2.6% 0.3%

「方針が決まっている」とは、この5つの項目が埋まっている状態を指します。 どの業務にAIを使うかを経営戦略に書き、各部署に渡し、責任者を決め、どのくらい使うかを決め、誰をどう育てるかを決める。日本企業がやるべき施策は、この5項目のうち足りていないものを進めることです。

掲げるところまでは他国と変わらない

日本で最も多い項目は「経営戦略のなかでAI活用の目的や方針が明示されている」です。ドイツとほぼ並んでおり、方針を文書に掲げるところまでは他国と大きく変わりません。

次の段階では、経営幹部から各部署への具体的な指示に差がつきます。さらに、取組を推進する部署や責任者の明確化でも差が見られます。

方針を各部署の実施事項に落とし、担当を決める段階で開いています。掲げた方針が、誰が何をするかの形になっていません。

リスキリング方針の明示は10.4%で最低

人材のリスキリングや配置転換の方針が明示されている日本の企業は中国の半分以下、4か国で最も低い値です。

人材不足を4か国で最も強く挙げたのが日本でした。その日本が、人材の育成方針を示すことでは最も動いていません。人材不足を採用市場の問題として扱っているかぎり、この項目は埋まらないでしょう。

何にAIを使うかが決まって初めて、誰にどのスキルを身につけてもらうかが決まります。

AI導入で最初にやるべき3つのこと

目的が定まっていない29.5%には、決める気がないというより、決める単位が大きすぎて決まらない状態が含まれています。

予算の確保、研修の場、社内データの整備、外部の専門家との契約のどれから手をつけるかは、何に使うかが決まらなければ順番がつきません。
着手できる単位は、業務1つ分です。

1. いま最も時間を使っている業務を一つ選ぶ

全社の課題を洗い出すのではなく、自社でいま最も人の時間を使っている業務を一つ挙げます。見積書の作成でも、問い合わせ対応でも、月次の報告資料でも構いません。

選ぶ基準は、効果の大きさではなく時間の量です。時間を使っている業務ほど、社内に手順とノウハウが溜まっており、AIに渡す材料があります。

2. その業務のどの工程をAIに任せるかを決める

選んだ業務を工程に分けます。問い合わせ対応であれば、内容の分類、過去事例の検索、回答文の作成、送信前の確認という具合です。このうちAIに任せる工程と、人が判断する工程を分けます。

工程まで決めると、必要なものが具体的になります。過去事例の検索をAIに任せるなら、過去の問い合わせ記録をAIが読める場所に置く必要があります。

回答文の作成を任せるなら、社内の言い回しの基準が要ります。業務を工程に分けた時点で、必要なデータと必要な人材の要件が自動的に決まります。

3. 決めた内容を方針の形に書き出す

工程まで決まったら、前節の5項目に書き写します。

  • 経営戦略への明示
  • 各部署への実施事項
  • 推進責任者の決定
  • 投資計画
  • リスキリング方針

1つの業務に注目すれば、この5項目はどれも数行で書けます。全社を対象にすると書けなかったものが、対象を絞ると書けるようになる。これが「目的が決まっていない」状態から出る道筋です。

書き出したあとに必要になるのは、社内の資料やマニュアルをAIが参照できる形に置き直す作業です。

中外製薬の例

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(38頁、図表Ⅰ-2-1-21)

AI導入の課題に関するよくある質問

白書のデータをもとに、AI導入の課題としてよく挙がる疑問に答えます。

AI導入で最も多い課題は何ですか

デジタル化に関する調査で日本企業が挙げた障壁は、「人材不足」39.4%が最も多く、「明確な目的・目標が定まっていない」29.5%が続きます。どちらも4か国で最も高い値です。

ただし本文で見たとおり、人材不足は目的が決まっていないことの結果でもあります。

情報漏洩が心配で導入に踏み切れません

同じ懸念を持つ日本企業は46.4%で、生成AI利用のリスクのなかで最も多くなっています。特殊な心配ではありません。

対策としては、全社的な指針やガイドラインを整備している企業が日本41.1%あり、リスク対策のなかでは最も実施率が高い項目です。

経営層をどう説得すればよいですか

「経営陣(決定権者)が乗り気ではない」を障壁に挙げた日本企業は7.2%で、4か国で最も低い値でした。

説得の前に、経営戦略にAI活用の目的が明示されているか(日本36.8%)、各部署に実施事項が渡っているか(同27.9%)を確認するほうが、詰まっている場所に近くなります。

他社はどの業務から使っていますか

議事録やメールの作成補助から入る企業が最も多くなっています。こうした業務は個人でも試しやすく、営業・販売などでは、会社全体の施策というより社員が個人で生成AIを使っているケースも少なくありません。

そのため、比較的導入のハードルが低い業務から活用が広がっていることがうかがえます。

まとめ:AI導入の課題は目的から順に埋める

AI導入の課題としてよく挙げられる「危機感」「経営陣の姿勢」「規制・制度」は、日本の突出した課題ではありません。日本が最も高かったのは「人材不足」「明確な目的・目標が定まっていない」です。この2つは並列ではなく、順番のの問題として捉えられます。

何にAIを使うかが決まっていなければ、必要な人材も、育成方針も、環境整備の優先順位も決まりません。

企業がまずやるべきことは、AIの活用方針を全社で大きく決めることではありません。いま最も時間を使っている業務を1つ選び、どの工程をAIに任せるか決めることといえます。

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-2-1-3、Ⅰ-2-1-4、Ⅰ-2-1-5、Ⅰ-2-1-8、Ⅰ-2-1-9、Ⅰ-2-1-10)

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」「データ集」(第Ⅱ部第1章第11節「デジタル化に関して現在認識している、もしくは今後想定される課題や障壁(各国比較)」「デジタル化に対応する人材の在籍状況(各国比較)」「デジタル人材の確保に向けた取組(各国比較)」)