生成AIの利用ガイドラインを作ろうとしている企業は、統計で見れば進んでいる側にいます。総務省が公表した令和8年版情報通信白書によると、活用方針を定めた日本企業は68.9%で4か国の最下位、方針が決まっていない企業と決まっているかわからない企業が27.6%ありました。
日本企業では生成AI活用方針の整備が遅れている
日本企業の3割近くは、生成AIを使うかどうかの方針そのものが決まっていません。
| 生成AI活用方針の策定状況 | 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 |
|---|---|---|---|---|
| 積極的に活用する方針である | 30.1% | 34.6% | 40.5% | 49.8% |
| 活用する領域を限定して利用する方針である | 38.8% | 48.2% | 41.7% | 45.6% |
| 利用を禁止している | 3.5% | 9.1% | 7.8% | 1.9% |
| 方針を明確に定めていない | 20.2% | 7.8% | 9.7% | 2.3% |
| わからない | 7.4% | 0.3% | 0.3% | 0.3% |
方針を定めている企業は日本68.9%、米国82.8%、ドイツ82.2%、中国95.4%です。日本は4か国で最も低く、中国とは26.5ポイントの差があります。
日本に注目すると、2024年度に比べて19.2ポイント上昇しました。方針を持つ側に移った企業がこれだけ増えてなお、他の3か国との差が残っている状態です。
日本企業の5社に1社が生成AI活用方針を明確に定めていない
日本を除く3カ国は10%未満であるのに対して、日本は20.2%です。
「わからない」は他の3か国の約25倍
米国・ドイツ・中国はいずれも0.3%で、日本だけが7.4%あります。回答した人が、自社に方針があるかどうかを把握していないということです。
また、生成AIのリスクについて「わからない」と答えた企業は16.5%、AI人材の確保について「わからない」と答えた企業は21.4%でした。どちらも他の3か国では1%台か、それ以下です。日本では、自社の状況を十分に把握できていない実態がうかがえます。
日本企業は生成AIを禁止しているのか
生成AIの利用を禁止している日本企業は3.5%です。米国とドイツより低く、禁止が最も少ないのは中国でした。
ガイドラインの議論は、どこまで禁止するかから始まることがあります。ただし4か国を並べると、禁止という選択を採っているのはむしろ米国とドイツのほうです。日本企業は生成AIを止めているのではなく、使うかどうかを決めていません。
個人の利用はどこまで進んでいるか
会社が決めていない間も、個人の利用は進んでいます。生成AIサービスを「ほぼ毎日」使う人は日本で29.9%で、週に少なくとも1回まで含めると65.4%になります。
年齢別に見ると、1日1時間以上使う人の割合が最も高いのは20代の18.0%です。仕事に就いている年代のなかでは、20代と30代が上位に来ます。
出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第1章第1節「個人におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-1-1-9)
ただし、この2つの設問は個人向けの調査で、企業向け調査とは回答者が違います。会社の方針が決まっていないから個人が使い始めた、という因果を示すデータではありません。並べて言えるのは、方針の議論が続いている間にも使う人は使っている、というところまでです。
ガイドラインはすでに4割の企業が作っている
文書の整備という点では、日本企業は他国に引けを取りません。生成AIのリスクを防ぐ取組を尋ねた設問で、「全社的な指針やガイドラインを整備している」と答えた日本企業は41.1%でした。米国50.4%に次ぐ2番目で、ドイツと中国を上回ります。
一方で、AIガバナンスの責任者が明確になっている、導入後の定期的な評価・検証、企画・導入段階の審査体制、ガバナンスツールの導入は、いずれも4か国で最も低い水準でした。文書はあり、それを守らせる仕組みが薄いという形で、この点は生成AIのリスク対策を扱った記事で詳しく見ています。
ここまでの数字を並べると、日本企業の状態が二つに分かれます。ガイドラインを作った企業は他国と比べて少なくない一方、そもそも活用方針が決まっていない企業が27.6%あります。足りないのは文書を作る力ではなく、その文書が何のためのものかを決める段階です。
AIガイドライン作成はひな形を活用
生成AIの利用ガイドラインのひな形は、すでに公開されています。日本ディープラーニング協会、情報処理推進機構、デジタル庁、東京都などが配布しており、条文の形まで整ったものが手に入ります。自社の規程をそのまま公開している企業もあります。
ひな形に並んでいるのは、利用してよいツール、入力してよいデータの範囲、生成物の確認方法、違反時の扱いといった項目です。
どれも空欄が「自社ではどこまでを許すか」を尋ねる形になっているため、使う範囲が決まっていなければ書き込めません。ひな形を手に入れてもガイドライン策定が進まない場合、その理由はもっと手前の段階で生まれているかもしれません。
まず、積極的に活用する方針を採るのか、活用する領域を限定する方針を採るのか。日本で多いのは後者です。領域を限定するなら、どの業務で使うかを先に決めることになり、入力してよいデータの範囲もその業務に合わせて書けます。
日清食品グループが作ったひな形
生成AIの活用で先進的な取組を進める企業の例として日清食品グループがあります。
同社は、生成AIの活用効果を見込める対象業務を部門ごとに選定したうえで、プロンプトのテンプレート(ひな形)を作成し、活用効果を測定する取組を少しずつ社内展開していったとされています。その結果、社内の生成AI利用率は直近で7割を超えているとのことです。
ここで作られたひな形は、使い方の見本です。順序も、対象業務を部門ごとに選んでから作る形になっています。利用ガイドラインを探して見つかるのは、たいてい禁止事項を並べた文書のほうです。使い方の見本まで作るには、どの業務で何に使うかが決まっている必要があります。
出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-2-1-24)
方針が決まっていない状態から始める順序
自社に当てはめる順序を、情報通信白書を参考に考えましょう。
自社がどの状態かを確かめる
白書の選択肢は、方針を定めている・禁止している・定めていない・わからないの4つです。「わからない」に当たる状態であれば、最初の作業は、生成AIの利用について誰が決めるのかを決めることになります。
過去に他の部門が作業に取り掛かっていたり、部署ごとに運用が分かれている可能性もあります。現状を把握しないまま全社のガイドラインを作ると、すでに動いている運用と食い違い、現場では守られない文書ができてしまいます。
領域を限定する方針から始める
全社で積極的に活用すると決める必要はありません。日本で最も多いのは、活用する領域を限定して利用する方針の38.8%です。他3カ国でも、すべての領域で利用しているわけではありません。
日清食品グループも、部門ごとに対象業務を選ぶことから始めていました。範囲を狭くすれば、入力してよいデータも生成物の確認方法も具体的に書けるので、ひな形の空欄が埋まりやすくなります。
中小企業では4割が決まっていない
企業規模で見ると差があります。「方針を明確に定めていない」中小企業は31.5%、「わからない」は9.3%である一方、大企業は15.0%と6.5%です。
中小企業で方針が決まっていないのは、決める人がいないからではなく、決める場が設けられていないためと考えられます。専任の担当者がいない企業では、生成AIの利用可否を誰が決めるかが振り分けられていません。まず決める場を一度作れば、範囲の議論はそこから始まります。
生成AIの利用ガイドラインに関するよくある質問
白書のデータを元に、4つの質問に回答します。
Q1. ガイドラインのひな形をそのまま使ってよいですか
使うことをおすすめします。日本ディープラーニング協会や情報処理推進機構が公開しているものは、条文の構成まで整っています。ただし、利用してよいツールの範囲や入力してよいデータの区分は、自社で決めなければ埋まりません。埋められない欄が残ったときは、その手前の方針が決まっていないことになります。
Q2. 活用方針とガイドラインは何が違うのですか
活用方針は、生成AIを積極的に使うか、領域を限定するか、禁止するかという会社の構えです。ガイドラインは、その方針のもとで守るべきことを文書にしたものです。
Q3. 生成AIの利用を禁止すべきですか
生成AIの利用を禁止している日本企業は3.5%です。米国とドイツより少なく、4か国のなかで日本が特に厳しいということはありません。禁止するかどうかより、先に使う範囲を決めるほうが重要になります。
Q4. ガイドラインを作れば安全になりますか
文書と運用は別に用意する必要があります。日本企業のガイドライン整備41.1%は4か国で2番目に高い一方、導入後の評価・検証29.1%や企画・導入段階の審査26.1%はいずれも最も低い水準でした。
まとめ:ガイドラインの前に決まっている必要があるもの
生成AIの活用方針を定めた日本企業は68.9%で、他3カ国を下回ります。「方針を明確に定めていない」と「わからない」を合わせると27.6%になり、他の3か国の8.1%、10.0%、2.6%と比べて突出しています。
その一方で、禁止している企業は3.5%しかなく、ガイドラインを整備した企業は4か国で2番目でした。白書がヒアリングした日清食品グループは、対象業務を部門ごとに選んでから、使い方のひな形を作っています。
まず始めるべきは、自社が4つの状態のどれに当たるかを確かめることです。方針が決まっていない、あるいは決まっているかわからないのであれば、条文を書く前に、生成AIを使う業務を一つ決める。範囲が決まってはじめて、ひな形への記入が進みます。
出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-2-1-1、Ⅰ-2-1-2、Ⅰ-2-1-9、Ⅰ-2-1-24)
出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第1章第1節「個人におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-1-1-8、Ⅰ-1-1-9)