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生成AIのリスク対策はどこまで進んでいる?日本企業がすべき対策

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公開 2026-09-05

生成AIのリスク対策として最初に挙げられるのは、たいてい利用ガイドラインの策定です。総務省が2026年7月に公表した令和8年版情報通信白書を見ると、日本企業のガイドライン整備は4か国のなかで2番目に高い値でした。一方、導入前の審査も導入後の検証も検知の仕組みも、いずれも4か国で最も低い水準です。実施率のデータから、日本のリスク対策がどこで止まっているのかを示します。

日本企業が認識している生成AIのリスク

白書は、生成AIの利用にあたって認識しているリスクを8つの選択肢で尋ねています。

生成AI利用のリスク 日本 米国 ドイツ 中国
社内情報の漏洩などのセキュリティリスクがある 46.4% 36.9% 31.7% 42.7%
出力結果の精度に問題がある 35.3% 44.3% 41.7% 52.1%
著作権等の権利を侵害する可能性がある 31.3% 33.7% 44.7% 36.2%
出力結果に倫理上不適切な内容や偏見が含まれる可能性がある 24.7% 38.5% 35.9% 45.0%
個人情報の取り扱いなどプライバシーの侵害の可能性がある 24.5% 38.2% 44.0% 43.4%
ブラックボックス化により判断理由などの説明が不足する可能性がある 20.2% 16.2% 16.2% 22.0%
わからない 16.5% 1.0% 1.3% 1.6%
リスクはない 2.9% 12.0% 8.1% 6.8%

日本のAIリスクは「情報漏洩」がメイン

社内情報の漏洩に関して、日本は4か国で比べても最も高い値です。

一方、出力結果の精度や著作権の侵害、倫理上の問題、プライバシーの侵害は、いずれも4か国で最も低い値でした。日本が他国を上回っているのは、情報漏洩の1項目だけです。

生成AIのリスクを否定しているわけではない

「リスクはない」と答えた日本企業は2.9%です。他の3カ国と比べて最も低く、リスクがないと考えている企業の割合は日本が最も少ないことになります。

それでも「わからない」が16.5%あり、米国やドイツ、中国とは桁が違います。リスクがあることは分かっているが、それが具体的に何かを特定できていない企業が6社に1社ある状態です。

では、そのリスクに企業はどう対応しているのでしょうか。

AIリスク対策はガイドラインで対応

同じ調査で、リスクを防ぐための取組の実施状況を尋ねています。

リスク対策の取組 日本 米国 ドイツ 中国
全社的な指針やガイドラインを整備している 41.1% 50.4% 39.6% 40.3%
AIガバナンスの取組を推進する部署や責任者が明確になっている 35.9% 44.9% 49.6% 58.4%
製品・サービス導入後、定期的な評価・検証が行われている 29.1% 45.7% 42.2% 51.9%
製品・サービスの企画・導入段階で専門的な知見から審査する体制がある 26.1% 52.5% 38.1% 59.0%
生成AIへの入力データを学習データとして利用できない仕組みを導入している 19.9% 32.2% 34.1% 47.8%
AIガバナンスツールを導入し、リスク検知や攻撃の防御が行われている 10.4% 19.9% 20.7% 31.4%
特に実施している施策はない・把握していない 16.3% 1.8% 2.2% 1.0%

指針やガイドラインは作っている

全社的な指針やガイドラインの整備はドイツと中国を上回り、米国に次ぐ2番目でした。リスク対策の文書を作っていないという事実は、日本企業についてはありません。

ただし、この41.1%は企業規模によって開きがあり、大企業44.9%に対して中小企業は29.1%です。規模別の比較は別の記事で扱っています。

責任者の明確化や導入段階の審査は他国より遅れている

ガイドライン以外の項目を見ると、日本はすべて最下位です。責任者の明確化35.9%、導入後の評価・検証29.1%、企画・導入段階の審査26.1%、入力データを学習に使わせない仕組み19.9%、ガバナンスツール10.4%という結果でした。
そして「特に実施している施策はない・把握していない」企業が16.3%あり、3カ国に比べて桁が違います。

AIリスク対策の課題は入口の審査と出口の検証

差が大きい項目を並べると、抜けている場所に共通する形が見えてきます。ここでは3つに整理します。

日本企業のAIリスク対策の課題

1つ目は入口の審査です。日本で製品やサービスの企画・導入段階で専門的な知見から審査する体制があるのは26.1%で、中国の半分以下、米国とは26.4ポイントの差があります。何を使うかを決める段階で専門の目が入る企業は、4社に1社です。

2つ目は出口の検証です。日本で導入後に定期的な評価・検証を行っているのは29.1%で、中国とは22.8ポイントの差があります。生成AIは同じ入力でも出力が変わり、モデルが更新されれば挙動も変わります。導入時に問題がなかったからといって、半年後に問題がないとは限りません。

3つ目は検知の道具です。日本でガバナンスツールを導入してリスク検知や攻撃の防御を行っているのは10.4%で、中国の3分の1にとどまります。人が気付かなければ、異常を把握できない状態です。

なぜ運用が薄いのか

差が最も大きい2項目には、いずれも「製品・サービスの企画・導入段階」「製品・サービス導入後」とあります。つまり、自社が世に出す製品やサービスにAIを組み込む場合の審査と検証です。

日本で生成AIの効果が出ているのは議事録・メール作成補助と法務で、カスタマーサポートと研究・商品開発はいずれも4か国で最も低い値でした。顧客に出すものにAIを使っていなければ、出す前の審査も、出したあとの検証も必要になりません。

対策が文書で止まっているのは、対策を怠っているというより、AIの使い先が社内に限られているからとも考えられます。ただし、これは別々の設問を並べて見た結果のため、直接的に因果関係があるわけではありません。

中外製薬の生成AIリスク対策

白書で紹介されている企業のなかに、中外製薬があります。同社は、人が確認する工程を残し、AIが参照できるデータの範囲も設定しています。

中外製薬では、AI導入前に安全性を確認したうえで利用環境を整え、利用時のルールを設けています。つまり、会社側でAIリスクを抑えた環境を用意し、その範囲でAIを使う考え方だとみられます。
「機密情報を入力しない」というガイドラインだけでは、利用者の行動次第でリスクにもつながるため、そのようなリスクを抑えているといえるでしょう。

日本企業がすべき生成AIリスク対策

審査体制も検証の仕組みもガバナンスツールも、揃えようとすると大きな話に見えます。海外との差は、専門部署や高価な製品があるかを聞いたものではありません。決めているかどうかを聞いたものです。

審査は「誰が見るか」を決めること

審査体制が26.1%であるのは、審査部門が必要という意味ではありません。新しいAIツールを使い始める前に、誰が一度見るかを決めるところから始められます。情報システムの担当者でも、法務の担当でも構いません。

決まっていないことと、体制がないことは同じではありません。現場が個別に契約して使い始め、会社として把握していないケースもあります。

導入後の検証は「いつ見直すか」を決めること

導入後の検証も同じく四半期に一度、社内で使っているAIツールと用途を一覧で確認することからです。

確認する項目も3つあれば十分です。使っていないツールが契約に残っていないか。当初の用途から違う使い方がされていないか。AIの出力ミスが業務に混ざった例が報告されていないかなどが挙げられます。

対外利用に出すときだけ基準を上げる

社内利用と、顧客に提供する製品への組み込みを同じ基準で審査すると、社内利用が円滑に進みません。議事録の要約に製品組み込みと同じ審査を課しても、リスクに見合った対策とはいいにくいでしょう。

その際は、顧客の目に触れるかどうかで、審査の重さを分けてみましょう。 日本の26.1%と中国の59.0%の差は、審査の進み具合だけではなく、AIを対外的な製品やサービスに使う場面の多さも関係してくる可能性があります。社外に出すものが増えたときに審査を厚くできる仕組みにしておくほうが、最初から全部を重くするより現実的です。

生成AIのリスク対策に関するよくある質問

白書のデータから答えられる範囲で、4つの質問に回答します。

Q1. ガイドラインを作れば対策としては十分ですか

ガイドラインの整備は、4か国で2番目に高い値です。文書の面では日本は遅れていません。

一方、責任者の明確化や導入後の評価・検証、企画・導入段階の審査、ガバナンスツールはいずれも4か国で最も低い水準です。文書と、それを守らせる仕組みは別に用意する必要があります。

Q2. 社外に出す製品にAIを使うときは何が変わりますか

導入前の審査と、導入後の定期的な検証が必要になります。白書の設問も、この2つを「製品・サービス」の企画・導入段階と導入後として尋ねています。

社内利用では省略できる工程で、日本の実施率が低水準にとどまっているのは、対外利用がまだ進んでいないことを意味しています。

Q3. 何から手をつけるべきですか

新しいAIツールを使い始める前に、誰が一度見るかを決めることが重要です。専門部署を作る話ではありません。決まっていないまま現場が個別に契約している状態を止めるだけで、審査体制の整備につながります。

Q4. 社内利用だけならリスクは低いですか

日本企業が最も多く挙げたリスクは社内情報の漏洩です。これは社内利用でも起こります。入力したデータを学習に使わせない仕組みを導入している企業も19.9%にとどまります。

また、リスクの中身が「わからない」と答えた企業が16.5%あります。社内利用だからリスクは低いと判断できる状態ではありません。

まとめ:生成AIのリスク対策は文書の次から

日本企業のリスク認識は情報漏洩に集中しています。4か国で最も高く、それ以外の項目はいずれも最も低い値でした。ただし「リスクはない」は2.9%で4か国の最低です。リスクを否定しているのではなく、「わからない」が16.5%を占めています。

対策では、ガイドラインの整備だけが4か国2位です。責任者の明確化、導入後の検証、企画・導入段階の審査、ガバナンスツールはすべて最下位で、「特に実施していない」も16.3%あります。文書は整備されていても、その後の運用に差があります。

次に取る行動は、新しいAIツールを使い始める前に、誰が一度見るかを決めることです。まず入口の審査を決め、そのうえで四半期に一度の見直しを加える。これだけでも、抜けている3つのうち2つが埋まります。

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-2-1-7、Ⅰ-2-1-8、Ⅰ-2-1-9)

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