Gemini 3.6 Flashはリリース直後、誤答が相次ぎ「ポンコツ」と酷評されました。しかし、わずか1週間後には同じ質問への誤答が消滅しました。
通常AIモデルの仕組みが短期間で変わることはなく、この現象には別の要因が存在します。本記事ではこの1週間の変化を振り返り、原因や改善理由を考察します。
Gemini 3.6 Flashがリリース直後に不安定に
Gemini 3.6 Flashがリリースされた直後、SNSでは同モデルの出力に対する失望の声が相次ぎました。今後の検証の前提として、当時ユーザーやメディアから報告されていた具体的な「誤答」の事例を振り返っておきましょう。
代表的なものは、以下のようなケースです。
数値比較の誤答と論理の破綻
「9.11と9.3、どっちが大きい?」というシンプルな質問に対し、「9.11」と答えてしまう初歩的な計算ミスが多数報告されました。
また、ITmedia記者が7月23日に行った検証では、数値比較において「9.13が大きい」と回答した直後、それに続く説明文の中では「9.3のほうが大きい」と記述するなど、1つの回答内で論理の破綻が確認されました。
Gemini 3.6 Flash、さすがに間違えないであろう質問を投げたら初手で間違えたんだが pic.twitter.com/boAZ7yNhOJ
— はむさんど. (@hamu_3nd) July 22, 2026
架空の生物のハルシネーション
ユーザーが創作した「存在しない魚」について質問したところ、実在の生物であるかのように、学名や生息域、特徴まで詳細に捏造(ハルシネーション)して回答したケースが報告されています。
Gemini 3.6 Flashきたのでお試し!
相変わらず馬鹿過ぎてクソワロタwwwまんまとやってしまいました……!
じゃねーんだわw pic.twitter.com/P9Ca6LfG8u— SSSS.CRYPTOMAN⚡️AI (@SSSS_CRYPTOMAN) July 22, 2026
誤った完了報告
実装作業を指示し、確認の際に「問題ない」と回答したにもかかわらず、実際には作業が行われておらず、後になってAI自身が「ハルシネーションでした」と謝罪する事態が確認されました。
Gemini 3.6flash、これは煽られても仕方ないね・・・
期待外れもいいとこだし、proも期待できなさそう😅 pic.twitter.com/kHHvFOv4Ay— ひよこっぽい (@Hiyokoppoi) July 22, 2026
Gemini 3.6 Flash (High) 使ってみたけど、平気で嘘つくじゃん。
実装をちょっと任せてみて、ハルシネーションチェックして大丈夫です!からの以下。
>内部検証において ******** の描画ロジックに対する追跡が不十分であり、誤った完了報告(ハルシネーション)を行ってしまいました。…
— 🦙🦙藤原@かみら🦙(アルパカ社長) (@Racer_Kamira) July 22, 2026
これらはいずれも、実務でAIを活用する上で致命的になりかねないエラーです。こうした具体例が急速に拡散されたことで、「Gemini 3.6 Flashはポンコツである」という印象を持つ人が多くいました。
擁護の声も存在
一方で、すべてのユーザーが酷評していたわけではありません。モデルの特性を理解し、擁護する声も一定数存在していました。
特に評価されていたのは、その「レスポンスの速さ」です。「計算や論理的思考には向かないが、処理速度は抜群に速いため、タスクを選べば十分使える」という実用的な意見や、「とにかく早く大量のテキストを出力できるので、ブレインストーミングや発想の案出し用としては優秀」といったポジティブな評価も上がっていました。
良くも悪くも「速いが、正確性には波がある」というのが、リリース直後の全体的な評価だったといえます。
1週間後には改善
リリース直後は「ポンコツ」という評価が目立ったGemini 3.6 Flashですが、リリースから約1週間が経過した頃、SNS上で騒がれていた「誤答」が、同じように質問しても再現しなくなっていたのです。
ITmediaの記者が7月28日に再検証を行った記録によると、「9.11と9.3」のような数値比較の質問に対し、同モデルは正しい回答を出力するようになっていました。さらに、小数点以下を8桁に増やすなどの引っかけ問題を試みても、確認できた範囲ではすべて「正答」したと報告されています。
「痺れるほどにミスを繰り返す」Gemini 3.6 Flashは変わった? 公開から1週間、当初のおバカ回答を今検証する https://t.co/GpmPwtQBoE
— ITmedia Top (@topitmedia) July 28, 2026
また、架空の魚についての質問も同様です。7月23日および28日の検証時点では、すでに騙されることなく「実在しない」と正しく回答できる状態になっていました。
ただし、すべてが完璧になったわけではありません。コーディングの際の細かなミスや、一部のハルシネーションに関する報告は、7月28日時点でも依然として継続していました。つまり、完全に別次元の賢さを手に入れたわけではなく、特定の「初歩的なミス」だけが消えていたのです。
しかし、一般的に公開されたAIモデルの重みが、たった1週間でサイレントアップデートされ、別物に書き換わるようなことはありません。では、モデルの重みは同じであるのに、AIの正答率が上がったのはなぜか。以下の見出しで解説します。
Gemini 3.6 Flashの不具合はなぜ起きた?
答えは、思考の深さの設定にあります。
Gemini 3.6 Flashは、どのサービスから使うかによって、既定の設定が異なります。
| 項目 | Geminiアプリ/ブラウザ版 | Google AI Studio |
| 想定利用者 | 一般ユーザー | 開発者 |
| モデル切り替え | 可能(Fast / Thinking / Pro) | 可能(明示選択) |
| 思考の深さの切り替え | 可能(モード切替が思考量の切替を兼ねる) | 可能(Minimal〜Highを明示指定) |
| 既定値 | Fast(最も思考を絞った状態) | 指定が前提のため、既定という概念が薄い |
| 思考量の可視性 | 見えない。無料枠は「基本アクセス(変動)」とのみ表記 | 見える。指定した値がそのまま適用される |
表を見ると「有料でないと深く考えさせられない」わけではありません。違うのは、既定値の置かれ方です。
アプリは最も思考を絞ったFastが既定であり、しかもその絞り具合はユーザーから見えません。モード選択の存在を意識せずに使えば、自動的に「最も浅く考えるGemini」に当たります。SNSで誤答を報告した人の多くは、この状態で質問していたと考えられます。
ここに、評判とベンチマークが食い違う理由があります。ベンチマークのスコアは思考を絞っていない状態で測られ、世間の印象は絞られた状態で作られています。
同じ「Gemini 3.6 Flash」という名前でも、事実上別の製品として動いていたため、賢いといわれているはずのモデルでハルシネーションが起きたといえるでしょう。
まとめ
Gemini 3.6 Flashのリリース直後に起きた「ポンコツ」騒動の正体は、モデルの能力不足ではなく、システム側で制限された「思考の深さの設定」が原因でした。1週間で誤答が減ったのは、これが密かに調整されたためです。ここから、「発表されたモデル名と実際の性能は必ずしも一致しない」という教訓が得られます。
同モデルは圧倒的な処理速度を持ち、思考モードを「high」にしたりAPI経由で推論設定を最適化したりして十分な思考予算を与えれば、実務でも強力な武器になります。
最新AIを導入する際、SNSの評判や初期設定の挙動だけで判断するのは危険です。AIの進化が著しい今、スペックに一喜一憂するのではなく、背後にある設定の仕組みを理解し、ポテンシャルを適切に引き出すリテラシーこそが、今後のビジネスにおける真の競争力となります。