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経営でAI活用が効かない理由。活用率46%でも効果実感は20%の現実

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公開 2026-09-02

経営業務でAIの効果を実感している日本企業は20.1%で、白書が挙げる13業務のうち最も低い値です。他の3か国では、最下位はいずれも法務でした。ただし、経営者がAIを使っていないわけではありません。活用率は46.0%で、13業務の中位につけています。総務省が2026年7月に公表した令和8年版情報通信白書から、経営へのAI活用が効かない理由を読み解きます。

経営でAI効果を実感できていない日本

情報通信白書では生成AIの活用状況を13の業務に分けて調べており、その1つに「経営」があります。経営判断や経営管理の業務でAI導入の効果を実感したかを尋ねた国別の結果はこちらです。

経営業務の効果実感 日本 米国 ドイツ 中国
効果を実感している 20.1% 32.1% 27.8% 28.7%

日本は米国より12ポイント低く、4か国で最も低い値です。そのうえで、13業務のなかで最下位の業務を国別に比較すると、日本だけ別の業務が来ます。

効果実感が最下位の業務
日本 経営 20.1%
米国 法務 18.4%
ドイツ 法務 22.8%
中国 法務 24.8%

法務が最下位になるのは、条文の解釈や契約書の判断は誤りが許されず、AIの出力をそのまま使う場面がほとんどないのが要因です。一方で、日本はそれよりさらに下に経営が入りました。
使っていないから最下位なのか、活用率を見て考察します。

活用率46.0%と効果実感20.1%の落差

経営業務での生成AIの活用率は46.0%です。13業務のなかでの順位と並べます。

経営業務 13業務中の順位
活用率 46.0% 7位
効果を実感している割合 20.1% 13位

半数近い企業が、経営業務で生成AIを使っています。議事録・メール作成補助や営業・販売には届きませんが、13業務のなかでは7位に位置しています。
ここで注目すべきは順位です。AIを経営業務に使っている企業の数では7番目、成果が出た実感では13番目。この落差は13業務のなかで最も大きいです。
デジタル化の障壁として「経営陣が乗り気ではない」を挙げた日本企業は7.2%で、4か国のなかで最も低い値でした。

経営でAIが使われている業務とは?

白書は活用率の内訳を3つに分けています。経営業務での回答は次のとおりです。

経営業務での活用の形 日本
業務プロセスがAI中心に変更されている 8.0%
部署内の特定業務で活用している 21.3%
従業員が個人作業の効率化で活用している 16.7%
合計 46.0%

「部署内の特定業務で活用している」が最も多く、次が「従業員が個人作業の効率化で活用している」でした。経営業務のなかでAIに任されているのは、経営会議の資料をまとめる、報告書を要約する、送る前の文面を整えるといった作業だとわかります。判断そのものではなく、判断の周辺にある作業です。

これらも、実際にやっていることは議事録・メール作成補助と大きく変わりません。違うのは、それが経営という業務の中で行われていることです。効果を聞かれても、資料作成が速くなったことを「経営でAIが効いた」と答えるのは難しいでしょう。

業務プロセスがAI中心に変更されていると答えた企業は8.0%です。判断の進め方そのものが変わった企業は、経営業務に生成AIを使っている企業のなかでも一部にとどまります。

経営判断にAIを使うために要るもの

効果が出る業務と出ない業務を分けている要素は、AIに社内の記録を渡す必要があるかどうかです。議事録はその場の音声だけで完結し、法務は条文や既存の書式を参照できます。経営判断は、その反対側にあります。

例えば、値下げをするかどうかを決める場面で、AIに渡せる情報を考えてみましょう。市場の統計や競合の公開情報は外から取れますが、それだけでは判断できません。自社が過去に同じ判断をしたときに何を前提に置いたのか、そのとき見送った選択肢は何で、実際にどうなったのかが必要です。

取締役会や経営会議で何が論点になったかの記録、稟議書に書かれた投資判断の前提、そして結果の振り返りが判断の材料となります。しかも多くの企業では、文書として残っていないか、残っていても個人のメールや紙のファイルに散らばっています。

生成AIが参照できるデータベースを構築している日本企業は24.5%で、米国は57.2%です。AIに社内の記録を渡す仕組みを持つ企業が4社に1社という状態は、経営業務の効果を実感している割合の差と同じ傾向です。

経営のAI活用で先行する企業の進め方

白書が聞き取りを行った企業のなかに、キリンホールディングスがあります。同社は10年分の取締役会と経営戦略会議の議事録に加え、社内資料や外部の最新情報をAIに読み込ませ、経営の判断を支援する「AI役員」を導入しています。

AIはこれらの情報をもとに複数の人格を構築し、AI同士で経営戦略上の論点や意見を議論したうえで、実際の経営戦略会議に提示します。

この事例で先に必要だったのは、AIの性能だけではありません。10年分の議事録や社内資料が記録として残っていたからこそAIに読ませ、過去の経営知見として活用できました。経営のAI活用で成果を出したい企業は、どのAIを選ぶかではなく、自社の判断が記録として残っているかがポイントです。KIRINホールディングスの例
出典:KIRINジャーナル「「KIRIN Digital Vision2035」に基づき、AI役員を導入

経営へのAI活用で最初に確認すること

経営判断にAIを使えるかどうかは、自社の記録によって決まります。導入の検討を始める前に、確認できることが3つあります。

直近1年の重い判断を3つ書き出す

投資でも、価格でも、人事でも構いません。会社として決めるのに時間がかかったものを3つ選びます。

そのうえで、その判断に至った経緯がどこに残っているかを確認します。議事録にあるのか、稟議書ににあるのか、誰かの記憶にしかないのか。それぞれについて調べます。

残っていない場合:AIより先に記録を始める

3つのうち1つも文書に残っていなければ、いまどのAIを導入しても経営判断に効果は期待できません。

始めるのは次の判断からでも遅くはありません。決めた内容と、そのとき見送った選択肢と、判断の前提にした数字を1ページにまとめて残す。これを続けた先で、AIに読ませるものができます。

残っている場合:AIから読める場所に置く

議事録や稟議書が電子化されていれば、次に必要なのはAIが参照できる形にする作業です。フォルダに整理されたファイルをそのまま渡しても、AIは答えを返してくれません。

誰がどの情報まで参照できるかを決める作業も同時に必要です。経営会議の記録には人事や投資の未公表情報が含まれます。この工程については別の記事で詳しく扱っています。

経営へのAI活用に関するよくある質問

白書のデータから答えられる範囲で、4つの質問に回答します。

Q1. AI経営とは何ですか

白書の調査では、生成AIの活用状況を13の業務に分けており、そのうちの一つが経営業務です。経営判断や経営管理にAIを使うことを指します。日本企業の活用率は46.0%、そのうち効果を実感しているのは20.1%で、13業務のなかで最も低い値でした。

Q2. 経営判断をAIに任せてよいのですか

白書のデータが示しているのは、判断を代替させた企業の話ではありません。経営業務で「業務プロセスがAI中心に変更されている」と答えた企業は8.0%にとどまり、多くは部署内の作業や個人の効率化に使っています。判断の材料を揃える段階でAIを使い、決めるのは人という形が現状の中心です。

Q3. 経営会議の資料作成にはもう使っています

資料作成にAIを用いている企業が最も多い層です。活用の内訳では「部署内の特定業務で活用している」21.3%と「従業員が個人作業の効率化で活用している」16.7%が大半を占めます。資料作成は判断の周辺にある作業で、判断そのものにAIを使うのとは別の段階になります。

Q4. 中小企業でも経営にAIを使えますか

中小企業のAI活用状況は、「経営戦略への明示」や「社外への発信」で大企業との差がついています。中小企業でも経営にAI活用は可能ですが、過去の経営判断が記録・データとして残っているかが効果の実感に大きく影響します。

まとめ:経営へのAI活用は記録の確認から始まる

日本での経営業務の効果実感は、メールや議事録作成などよりも低い値でした。

AIを経営に使っていないわけでなく、半数近くが使っています。しかし、部署内の特定業務と個人作業の効率化に寄っており、業務プロセスがAI中心に変わったのはわずか8.0%です。経営という業務の看板の下で、資料作成や要約が行われている状態だと読めます。

経営判断にAIを使うには、過去の判断の記録が必要です。まず直近の1年の重要な判断を3つ挙げ、経緯がどこに残っているのか確認しましょう。なければ、AI選定より先に記録を始めます。

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-2-1-5、Ⅰ-2-1-7)