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AI活用が業務効率化で止まる日本。海外が1位に挙げたのは「質の向上」

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公開 2026-09-16

AIで業務を効率化する取り組みは、日本企業でも広がっています。AI活用による影響として最も多く挙げられたのは、「作業時間の短縮による業務の効率化」で61.6%です。

一方、米国・ドイツ・中国では「質の向上」が1位です。令和8年版情報通信白書から、日本企業がAIを業務効率化の手段として捉える傾向が見えてきます。

効率化そのものが問題ではなく、その先の活用まで進められるかが次の課題です。

日本のAI活用の目的は業務効率化

総務省が公表した令和8年版情報通信白書によると、日本ではAI活用による影響として「作業時間の短縮などによる業務の効率化」が最も多く挙げられていました。

他の3か国が1位に挙げたのは、いずれも「製品・サービスの質の向上」でした。

生成AIの活用により生じうる影響 日本 米国 ドイツ 中国
作業時間の短縮などによる業務の効率化 61.6% 56.6% 51.1% 46.9%
品質管理の精度向上やパーソナライズなどによる製品・サービスの質の向上 32.2% 59.9% 54.4% 65.7%
新規ビジネスの立ち上げやイノベーションによるビジネスの拡大 20.6% 22.3% 25.2% 32.0%
作業の追加や不慣れな作業による業務効率の低下 17.9% 23.6% 22.0% 34.3%
情報漏洩や権利侵害による会社の信頼度の低下 19.6% 19.4% 24.6% 42.7%
解雇や配置換え、人材育成方針の変更など人事戦略の再考 10.7% 25.6% 16.5% 32.4%
人員不足の解消 26.8% 24.6% 28.5% 38.5%
技術継承やノウハウ共有の円滑化などによる従業員の専門的な経験・能力不足の緩和 16.3% 29.4% 37.5% 44.3%
生成AIの業務代替などによる従業員の現場経験や能力育成の不足 15.9% 16.5% 20.4% 28.2%
活用しないと企業としての競争力が失われる 15.9% 9.7% 9.1% 11.0%
その他 0.0% 0.3% 0.0% 0.0%
特に影響はない 12.8% 3.2% 5.2% 2.6%

「効率化」と「質の向上」の差は29.4ポイント

日本の1位は業務効率化の61.6%で、2位の質の向上32.2%を29.4ポイント上回ります。AIによる業務効率化に期待が集まっていることがわかります。

一方、米国やドイツ、中国では質の向上が1位で、効率化が2位です。米国とドイツでは、1位と2位の差が3.3ポイントしかなく、効率化と品質向上の両方が期待されています。

特に中国では、質の向上が18.8ポイント上回っています。AI活用の効果が業務効率化に偏っているのは、日本の特徴といえます。

「特に影響はない」12.8%も日本が最も高い

「特に影響はない」と答えた割合も、日本が4カ国のなかで最も高くなりました。8社に1社が、生成AIを活用しても影響はないと考えています。

一方で、「活用しないと企業としての競争力が失われる」と答えた企業も、日本が4カ国のなかで一番高い割合です。競争力を失うという危機感はあるものの、業務効率海外にどのような効果があるかまでは、イメージできていない傾向が確認できます。

実際、質の向上やビジネスの拡大、業務効率の低下、人事戦略の再考、技術継承やノウハウ共有、現場経験の不足の6つが4カ国の中で最も低かった項目です。効率化以外の影響が、良い方向も悪い方向もまとめて低く見積もられています。

なお、この設問が尋ねているのは「生じうる影響」で、実際に得られた効果を測った値ではありません。日本企業はAIを使わないことへの危機感は強い一方で、29.5%が「明確な目標・目的が定まっていない」と回答しています。

ノウハウのAI共有でも海外と差

技術継承やノウハウ共有の円滑化を挙げた日本企業は16.3%で、4か国のなかで最も低い結果でした。米国29.4%、ドイツ37.5%、中国44.3%です。

他の3か国では「質の向上」「業務の効率化」に続いて、技術やノウハウをAIに共有することにも期待が高まっています。日本では「人員不足の解消」が3位となっており、他3カ国とのAIに対する見方が違うと読み取れます。

効率化とノウハウ共有ではAIの役割が違う

AIによる業務効率化は、これまで人が行っている作業をAIに任せ、時間や手間を減らす使い方です。一方で、ノウハウの共有は、社員の過去の判断や知見をAIに読み込ませる方法です。

ここで、AI活用の利点としてよく挙げられる「属人化の解消」とは少し異なります。属人化の解消は、特定の人しかできない作業を誰でもできるようにすることです。ノウハウの共有は、ベテラン社員が持っている判断の基準をAIに残していく考え方です。

日本で効果が出ている業務と出ていない業務の違いも、AIに社内の記録を渡す必要があるかどうかで分かれていました。AIの業務効率化には強い期待がある一方、こうした知識の蓄積や共有への期待はまだ小さいことがわかります。

効率化への投資が積み上がらないのはなぜ?

AIの業務効率化は、削減できた作業時間から効果を測りやすいのが特徴です。同じ作業を来年もう一度AIに任せても得られるものは今年と同じで、活用の範囲はそれ以上に広がりません。

情報通信白書では、国立情報学研究所の佐藤一郎教授へのヒアリング内容を紹介しています。作業の自動化にとどまるAIの活用と、知見・知識・ノウハウを蓄積していく活動では長期的な価値が異なるという考え方です。

AIの効率化で自動化を目指すだけでなく、そこで生まれた知見を次の業務に残すことができるか。この違いが、AIへの投資をコスト削減のみで終わらせるか、継続的な活用につなげるかを分けます。

コストの議論と投資の議論

社内では、効果を見積もれるコスト削減が比較的数値にしやすいです。一方、知見の資産化は、いつどれだけ返ってくるかを数値にしにくいです。そのため、短期的な費用対効果だけで判断すると、AI活用が効率化に偏りやすくなります。

日本企業で業務効率化への期待が大きい背景には、こうした効果の測りやすさもあるかもしれません。

では、AIを効率化ツールで終わらせず、社内の知見を蓄積している企業は何をしているのでしょうか。

ダイキン工業とイオングループのAIの位置づけ

AI活用で先進的な取組を進める企業では、経営層が業務の効率化だけに使うのではなく、組織や業務を変える方法として位置づけています。

先述のとおり、日本企業は他の3か国に比べてAIを効率化ツールとして捉えている傾向が見られています。

一方、佐藤教授は、AIを単なるコストではなく企業の資産として捉え、業務の自動化だけではなく、社内にある知識やノウハウを活用できる形にすることが重要だと指摘しています。

AIを資産として位置付けられる理由として、これまでできなかったことができるようになること、そして現場や個人のレベルで蓄積されてきた知見を無形資産として企業全体が活用可能になることの2つが挙げられています。

ダイキン工業とイオングループが選んだ領域

ダイキン工業は、空調機の専門知識に関する生成AIの精度向上を目指し、独自のLLM開発に取り組んでいます。イオングループでは、幅広い業態で蓄積された膨大な顧客データの活用に向けて、複数のAIエージェントが連携するマルチエージェントシステムを内製で開発しています。

重要なのは、独自のLLMやマルチエージェントを導入したこと自体ではありません。どちらも、自社にしかないノウハウとデータがある領域を選んでいることです。白書でもこの2社について、自社で独自のノウハウやデータを持ち、競争力の源泉となる領域で価値創出を図る取組として紹介しています。

そのため、すべての企業がLLMを開発する必要がある、という話ではありません。既存のAIサービスに社内の記録をつなぐ場合でも、自社の記録や知識をどの業務につなげるかを考えることが重要です。

AIで知見を資産にするために最初に必要なもの

知識をAIに導入するには順番があります。ツールを選ぶ前に、AIが使えるデータや記録が社内にあるかどうかを見ます。

まず確認すべきは「AI-Ready」かどうか

佐藤教授は、AI導入に成功するための最初のステップとして「AIに対応するデータがあるかどうか、つまり「AI-Ready」化が出来ているかどうかという点がある」と指摘しています。AIエージェントの活用に向けては、データの精度と鮮度がより重要になります。

生成AIが参照できるデータベースを構築している日本企業は24.5%で、米国は57.2%です。日本では、社内データを整えても、それをAIが参照できる形にするところまで進んでいません。

資産にできるのは記録として残っている知見

知見をAIで活用するには、まず記録として残しておく必要があります。ベテラン社員の判断が本人の頭の中にしかない状態では、AIに渡すものがありません。

最初に確認したいのは、どの業務の判断が記録として残っているかを調べることです。過去の見積もりの根拠、不具合対応の判断、顧客ごとの対応方針。文書やメールの形で残っていれば活用できます。

一方で、会議で口頭で決めて議事録に結論しか書いていないものは、判断の基準が残っていません。その場合は、記録の残し方から見直す必要があります。

最初は1つの業務から始める

すべての業務で一斉に始める必要はありません。まずは、知識や判断を活かせる業務を1つ選びます。選ぶときの基準は2つあります。

1つ目は、自社のノウハウが競争力につながる業務であることです。一般的な事務作業をAIに任せても、同じことを他社もします。ダイキン工業が空調機の専門知識を選び、イオングループが自社の顧客データを選んでいるのは、そこが競争力の源泉だからです。

2つ目は、判断の記録が残っていることです。記録がなければ、AIを活用する前に記録を作る作業から始まります。それ自体は必要な作業ですが、期間の見積もりが変わります。

この2つを満たす業務が社内にあるかどうかを、まず確かめることになります。

AIによる業務効率化に関するよくある質問

白書のデータから答えられる範囲で、4つの質問に回答します。

Q1. AIで業務効率化を進めるのは間違いですか

間違いではありません。効率化は着手しやすく、成果も測りやすいAI導入の入口です。ただし、効率化だけで止まると次の投資につながりにくくなります。

Q2. 効率化で削減できた時間は何に使えばよいですか

削減した時間を別の作業に充てるだけでは、来年また同じ削減を探すことになります。判断の記録を残す作業に一部を回すと、次の資産化の材料になります。

Q3. ノウハウの資産化にはどれくらいの期間がかかりますか

期間は、記録がどれだけ残っているかによって変わります。過去の判断が文書として整理されていれば、既存のAIサービスにつなぐところから始められます。残っていない場合は、記録を作る工程が先に入ります。

Q4. 自社で独自のAIを開発する必要がありますか

必ずしも必要ではありません。白書では独自のLLMを開発する企業が紹介されていますが、重要なのは開発手法ではなく、自社のノウハウやデータをAI活用につなげることです。既存のAIサービスでも、社内データを参照できる仕組みを作れば活用できます。

まとめ:AIの業務効率化の先に何を積み上げるか

日本企業がAIの活用で生じうる影響として最も多く挙げたのは、「作業時間の短縮による業務の効率化」で61.6%でした。一方、米国・ドイツ・中国はいずれも質の向上が1位です。日本は他3カ国に比べて、AIによる業務効率化への期待が大きいことがわかります。

さらに、他の3か国が3番目に挙げる「技術継承やノウハウ共有」は、日本では16.3%にとどまりました。AIで作業時間を削減するだけでなく、社内の知見や判断を残し、次の業務に活かすところまで進められるかが、その先のAI活用を考えるポイントです。

まず取り組みたいのは、過去の判断の記録が残っている業務を1つ選ぶことです。過去の判断が文書として残っている業務を探し、そこから始める。AIツールを選ぶより前に、自社にどのような知識や資料があり、どこで活用できるのかを確認することから始めてみてください。

出典:総務省「令和8年版情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(図表Ⅰ-2-1-5、Ⅰ-2-1-10)

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